万座の夏、僕が僕を選ぶまで 第一章 世界でいちばん若い大学生
第一章 世界でいちばん若い大学生
七月のカリフォルニア。 青空がスタンフォード大学の広大なキャンパスを覆っていた。
学生たちが芝生で語り合い、 テニスコートでは歓声が響く。
その中を一人の少年が研究棟へ向かっていた。
アルフレッド・神崎。 十四歳。
日本では中学二年生の年齢だった。
しかし首から下げた学生証には、 スタンフォード大学工学部三年と記されていた。
飛び級を重ね、 企業との共同研究を複数行う特待生。
周囲は教授や研究者ばかりだった。
誰も彼を子ども扱いしない。
会議室では年齢ではなく成果だけが求められた。
人工知能。 ロボティクス。 次世代センサー。
毎日が論文と実験と会議で埋まっていた。
夕方。 研究棟の窓からテニスコートが見えた。
本当はテニスが好きだった。
だがラケットを握る時間はなかった。
研究が優先だった。
周囲の期待に応え続けることが当たり前になっていた。
「僕は何のために生きているんだろう」
夜。 研究室にはモニターの明かりだけが灯っていた。
共同研究先からのメール。 教授からの依頼。 企業とのミーティング。
十四歳の少年が背負うには重すぎる仕事だった。
それでも誰も止めない。
アル自身も、 それが普通だと思い込んでいた。
そんなある日、 母から一本の電話がかかってきた。
「夏休み、日本へ行くわよ」
母の故郷。 万座高原。 祖父母が営む温泉旅館。
アルはまだ知らなかった。
その夏が、 自分の人生を変えることになることを。
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