万座の夏、僕が僕を選ぶまで 第三章 真由との出会い
真由との出会い
夕方の万座高原。 アルフレッドは旅館の裏手に続く山道を歩いていた。
風が木々を揺らし、 セミの鳴き声が山に響く。
スマホを開けば未読メールは四十件以上。 だが今日は返信する気になれなかった。
笑い声が聞こえた。
広場のような空き地に、 数人の子供たちが集まっている。
その真ん中にいたのが、 昨日見かけた少女だった。
もちろんアルには意味が分からない。
少女はこちらへ近付いてきた。
アルは英語で答えた。
少女が固まる。
次の瞬間、 スマホを取り出して翻訳アプリを起動した。
それが、 真由との最初の会話だった。
真由は中学二年生。 偶然にもアルと同じ十四歳だった。
その後、 真由は翻訳アプリ越しに言った。
アルは首を傾げた。
秘密基地。 そんなものは映画の中だけの存在だと思っていた。
だが真由たちは本気だった。
森の中を進む。
すると古い小屋が現れた。
子供たちが改造した秘密基地。
アルは周囲を見回した。
研究施設よりもずっと小さい。 設備も何もない。
だが不思議だった。
胸が少し高鳴っている。
本心だった。
真由は満面の笑みを浮かべた。
帰り道。
真由が尋ねる。
真由の反応は研究の話を聞いた時より大きかった。
アルは少し笑う。
スタンフォードでは、 誰もテニスの話など聞かない。
だが真由たちは違った。
大学の話にも、 研究の話にも興味を示さない。
ただ一人の十四歳として接してくる。
それがなぜか心地良かった。
別れ際、 真由は当然のように手を振った。
また明日。
その言葉が、 アルには少し眩しく感じられた。
研究以外の予定を楽しみにするなんて、 いつ以来だろう。
沈みゆく夕日を見ながら、 アルは静かに思った。
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