万座の夏、僕が僕を選ぶまで 第三章 真由との出会い

第三章 真由との出会い
第三章

真由との出会い

夕方の万座高原。 アルフレッドは旅館の裏手に続く山道を歩いていた。

風が木々を揺らし、 セミの鳴き声が山に響く。

スマホを開けば未読メールは四十件以上。 だが今日は返信する気になれなかった。

* * *

笑い声が聞こえた。

広場のような空き地に、 数人の子供たちが集まっている。

その真ん中にいたのが、 昨日見かけた少女だった。

「あれ? 旅館の人じゃない?」

もちろんアルには意味が分からない。

少女はこちらへ近付いてきた。

「もしかして日本語わかんない?」

アルは英語で答えた。

“Sorry. I don't speak Japanese.”

少女が固まる。

次の瞬間、 スマホを取り出して翻訳アプリを起動した。

“My name is Mayu.”
“I am Alfred.”

それが、 真由との最初の会話だった。

真由は中学二年生。 偶然にもアルと同じ十四歳だった。

* * *

その後、 真由は翻訳アプリ越しに言った。

「秘密基地、見せてあげる」

アルは首を傾げた。

秘密基地。 そんなものは映画の中だけの存在だと思っていた。

だが真由たちは本気だった。

森の中を進む。

すると古い小屋が現れた。

子供たちが改造した秘密基地。

「どう?」

アルは周囲を見回した。

研究施設よりもずっと小さい。 設備も何もない。

だが不思議だった。

胸が少し高鳴っている。

“It's amazing.”

本心だった。

真由は満面の笑みを浮かべた。

* * *

帰り道。

真由が尋ねる。

“Do you play sports?”
“Tennis.”
“Really?”

真由の反応は研究の話を聞いた時より大きかった。

アルは少し笑う。

スタンフォードでは、 誰もテニスの話など聞かない。

だが真由たちは違った。

大学の話にも、 研究の話にも興味を示さない。

ただ一人の十四歳として接してくる。

それがなぜか心地良かった。

“Tomorrow!”

別れ際、 真由は当然のように手を振った。

また明日。

その言葉が、 アルには少し眩しく感じられた。

研究以外の予定を楽しみにするなんて、 いつ以来だろう。

沈みゆく夕日を見ながら、 アルは静かに思った。

「この夏は、少し面白くなるかもしれない」

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