一畑線・夏の淡い恋 第5章 次の夏へ
一畑線・夏の淡い恋
第5章 次の夏へ
東京へ戻ってから、一畑線の電車を見ることはなくなった。
学校へ行き、友達と話し、テストを受け、いつもの毎日が戻ってきた。
それでも、ときどき夕焼けを見ると、宍道湖の水面を思い出した。
風に揺れる稲。
出雲大社の大きな木。
駅のホームで手を振る直人。
そして、一畑線の窓から見た、ゆっくり流れていく夏の風景。
秋になり、冬になり、春になった。
私は何度も、あの夏のことを思い出した。
恋だったのかと聞かれたら、きっと答えられない。
ただ、夏の終わりに誰かと別れることが、あんなにも寂しいのだと初めて知った。
そして翌年の夏。
私は再び、一畑線のホームに立っていた。
蝉の声が聞こえる。
遠くの田んぼでは、夏の風が稲を揺らしている。
電車が近づいてきた。
ドアが開く。
車内へ乗り込むと、窓際の席に直人が座っていた。
一瞬、目が合った。
直人は驚いた顔をして、それから笑った。
私も笑った。
「久しぶり」
「うん。久しぶり」
電車が走り出す。
窓の向こうには、去年と同じようでいて、少しだけ違う夏の景色が広がっていた。
私は思った。
きっと、好きという気持ちは、突然大きくなるものではない。
一畑線の電車が一駅ずつ進むように、いつの間にか心の中に、小さな線路をつくっていくものなのだ。
そしてその線路は、夏が終わっても、心の中から消えることはなかった。
第5章
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