一畑線・夏の淡い恋 第1章 夏の一畑線
一畑線・夏の淡い恋
第1章 夏の一畑線
夏休みになると、東京から島根の祖母の家へ行くのが、私の小さな決まりだった。
中学二年の私は、都会の夏しか知らなかった。朝から車の音が途切れず、ビルのガラスには白い雲が映り、蝉の声さえどこか遠かった。
それが、電車を乗り継いで一畑電車のホームに立った瞬間、世界の音が変わった。
線路の向こうには濃い緑の山。風に揺れる稲。遠くから聞こえる蝉の声。そして、古い駅舎に差し込む、少し黄色みを帯びた夏の光。
電車が動き出すと、窓の外を田園がゆっくり流れていった。
「都会とは、ぜんぜん違うでしょう」
向かいに座っていた祖母が笑った。
私は窓に額を近づけた。
そのとき、次の駅から乗ってきた男の子と目が合った。
白いシャツに、少し日に焼けた顔。肩から古いスポーツバッグを下げている。
彼は一瞬だけ私を見て、それから照れたように窓の外へ顔を向けた。
それだけだった。
けれど、その日の夕方になっても、なぜか私はその男の子のことを忘れられなかった。
第1章
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